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名古屋高等裁判所 昭和52年(ラ)139号 決定 1977年12月02日

抗告人

渡部殖産株式会社

右代表者

渡部末吉

右代理人

辻巻真

辻巻淑子

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣旨及び抗告の理由は別紙のとおりであり、当裁判所の判断は次のとおりである。

一抗告理由第一について

抗告人の主張は、要するに

現下の経済状勢、税制の下では、和議により配当財源となるべき不動産が、任意売却のための必要経費、税額を超えて、将来値上りすることは全く期待できず、債務者は裁判所の仮差押命令にも違反するような不誠実な人間であつて、不動産売却代金も自己のために費消し尽す虞れも大であるのにこれを完全に抑制する機関もない、など和議条件の履行が極めて不確実である。しかるに、破産となれば右のような虞れがなくなるばかりではなく、岡田かぎ他一二名(以下中川グループと称する)の債務者所有不動産に対する抵当権は、その設定登記及び設定仮登記(以下単に中川グループの抵当権という)は深田健介、抗告人らの仮差押登記後のものであるため失効するか、仮に失効しないとしても否認権の行使により否認されるからこれによつて七、四〇〇万円の一般債権者に対する配当財産が確保できる。そうすれば破産の場合配当率は約七六パーセントとなり、本件和議条件と比較すると、実質的には破産の場合の方が一般債権者にとつて明らかに有利である。

というのである。

ところで、和議法五一条によれば裁判所は同条各号に列挙された事由がない限り不認可の決定はできないものとされているうえ、破産と和議を比較すると、破産においては多くの時間と経費を要し、有機的合目的々な財産処分を行いにくいため買いたたかれたりして、実際は少額の配当に終るのが普通であるのに対し、和議の場合は換価のための出費も少なくてすみ、破産を免れようとする債務者の経営努力の手腕を利用し、時宜をみての有機的合目的々な財産処分が可能なため、一般的には破産の場合よりも多額の配当が期待されている。しかも和議が条件不履行のため取消されれば結局は破産に移行するのであるから、一応総債権者の多数(総債権額の四分の三以上)によつて、和議に同意がなされた以上、和議の方が一般債権者にとつて有利であると解して妨げない。

そこで本件についてこれをみるに、まず現下の経済状態税制などから、単純に本件不動産の実質的値上りが期待しえないとするのは早計であるし、またそのようなことを認めるべき証拠もない。債務者が自己の不動産に対し仮差押がなされたからといつて、その不動産が許されないものではないから、深田健介による本件不動産に対する仮差押後、債務者が中川グループに抵当権設定したこと(このことは本件記録により認められる)を以つて債務者を不誠実とみることはできないし、そう認めるべき証拠もない。ちなみに記録によれば、抗告人は中川グループの抵当権に遅れる仮差押権者であり、右抵当権より先順位の仮差押権者である深田は本件和議に同意している。

また破産になれば、中川グループの抵当権が当然失効するとか、当然否認されるとかいつたものでないことは言うまでもないし、否認されるべきものであることを認めるべき証拠もない。したがつて右中川グループの七、四〇〇万余円が当然配当財産に加えられるわけではないうえ、抗告人が破産の場合の配当率、配当額の計算をするうえで採用した個々の数値についても疑問があつて、抗告人主張のような高額な配当率、配当額を肯定することはできない。もつとも、これらの点を措くとして、本件記録に顕われた債務者財産の価額、税額、債権額等の数値を基礎に配当額を計算すれば、抗告人主張のとおり、破産の場合と本件和議の間に大差のないことを一応認めることができる。しかし一方抗告人が右計算の前提に考えている破産は、即時に手続が完了し、しかも経費がゼロであるというような実態とは著しくかけ離れた理想形態であることが窺われ、前叙のような破産の実状等に照らせば、抗告人の示す程度の数額上の差異から、本件和議が明らかに一般債権者にとつて不利益とは認め難い。その他抗告人のこの点の主張を認めるに足りる証拠はない。

二同第二について

中川グループの抵当権が破産になれば当然否認されうるものでもないしそのような証拠もないことは前叙のとおりである。しかるに抗告人の主張は右抵当権が当然に否認される前提として一般債権者の公平を云々するものであつてその前提が是認できない以上理由がない。

三同第三について

抗告人の主張は、原審が和議の開始認可の確定により仮差押は当然失効する旨の規定(和議法四〇条二項、五八条)を仮差押登記後に設定された抵当権がある場合にもそのまま適用して仮差押が中止失効し抵当権が優先するに至るものと解し、中川グループの抵当権に全額別除権を認め、和議債権者としての議決権行使が許されないとしたのは違法である、というにある。

しかしながら和議法は和議の前後を問わず一般的には債務者の任意処分を禁ずるものでないこと前叙のとおりであるうえ、債権者らが債務者の行為を否認できるのは、和議開始後から和議認可までの一定期間に限られている(一般の詐害行為取消権の行使は別)ことも斟酌すれば、和議開始前に設定されたことが明らかな右抵当権が、和議法四〇条二項、五八条の規定により右仮差押が失効した反射的効果として優先的地位を獲得するに至るもやむを得ない。これが一般債権者全体の利益に反するとしても、そのために右抵当権者の権利を奪つて良いとする理由は見当らないし、一般債権者の利益といえども右の限度において考慮されるに止まると解する他はない。以上のことは登記の対抗力の問題とも関係がない。したがつて中川グループに議決権を認めなかつた原審の処置に違法はない。

四以上によれば、抗告人の主張はいずれも理由がなく、ほかに本件和議認可を違法とすべき瑕疵は見当らない。

よつて本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし主文のとおり決定する。

(綿引末男 白川芳澄 福田皓一)

抗告の趣旨、理由<省略>

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